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●WHOの推奨する非侵襲的な修復法 ARTテクニックとは

ART(Atraumatic Restorative Treatment:非侵襲的修復治療)テクニックとは、開発途上国での初期う蝕治療のために考えられたもので、1980年代半ばよりアフリカでの公衆衛生活動に取り組んでいたFrencken博士によって提唱されました。グラスアイオノマーセメントの歯質接着性と、フッ素徐放による二次う蝕抑制効果に期待した手法で、具体的には、手用切削器具を用いて軟化歯質のみを除去し、グラスアイオノマーセメントで窩洞はもちろんのこと、そこに連続する小窩裂溝まで含めて充填、封鎖するというものです。ARTは、専門的な技術や器械を用いずに行なえることから、途上国における画期的な修復方法として注目され、 1994年の世界保健デー(4月7日)にWHOにより全世界に向けて紹介されました。その後さまざまな国において適用され、先進国においても、今日の歯質を残す修復法に合致した方法として広く応用されています。

1994年にジンバブエにおいてフジIXを使用したART修復後の3年間の予後を追った報告では、歯科診療所のように理想的な環境下でない治療にもかかわらず、単純窩洞で完全保持率が88.3%という好成績が得られています。前年までと比べて、1994年が特に高い成績を示しているのには、術者のARTの経験とともにARTのために開発された高強度のグラスアイオノマーセメント(フジIX)を使用したことが大きな理由として考えられます。

フジIXは、ジーシーがWHOと共同開発したART用の高強度グラスアイオノマーセメントです。
日本では、フジIXのコンセプトを引き継ぎ、色調数を充実させたフジIXGPが販売されています。


●フッ化第一スズの効果

歯科ではさまざまなフッ素化合物が応用されており、その種類、応用法など予防方法について研究・検証がされています。なかでも、フッ素以上にプラークを抑制する効果があると言われるスズとの化合物であるフッ化第一スズ。この中に含まれるスズイオンの殺菌効果に加え、フッ素によるエナメル質の強化も同時に期待でき、安全性にも優れているため、臨床で3DSに使用する薬剤の第一候補として期待されています。 3DSとは、Dental Drug Delivery Systemの略称で、薬剤を目的とする器官や組織に効果的に運び、一定期間作用させて有効な治療を行なうというDrug Delivery Systemを歯科に応用したものです。しかし口腔内には、薬剤に対する耐性をもつバイオフィルムが存在するため、化学療法を成功させるためには、バイオフィルムを物理的に取り去るPTCによる前処置が不可欠となるのです。

ドラッグリテーナー使用の場合

個人トレーのドラッグリテーナーにフッ化物(フッ化第一スズ)を配合したプロスペックジェルテクトを注入している。こうしたリテーナーを用いると唾液に影響されないので、少量で安定した薬剤濃度を保持できる。

ドラッグリテーナーを歯列にかぶせている。

歯ブラシ使用の場合

個人トレーのドラッグリテーナーを使用しない場合、歯ブラシにプロスペックジェルテクトを注入し、塗布する方法もある。

唾液で薬剤濃度が薄くなってくるので、多めに歯に塗りつけていく。

ジーシーサークルNo.95 遊佐典子、山口幸子 3DSの実践 −臨床応用の実例報告− より抜粋

●グラスアイオノマーセメントは、歯の耐酸性を強くします。

フッ素入り歯磨きは、フッ素の働きによって歯を強くし、虫歯になりにくくする働きがあります。では、長期的にフッ素を徐放する性質を持つ充填用グラスアイオノマーセメントはどのような効果があるのでしょうか。そこで充填されたグラスアイオノマーセメントが、歯を強くすることを示す岡山大学歯学部歯科保存学第一講座(吉山昌宏教授)、永峰道博先生らの興味深いご研究を紹介させていただきます。

永峰先生らのご研究では、グラスアイオノマーセメントが充填されると歯質にう蝕による脱灰に抵抗する耐酸性のある層が歯質に形成されることが示されました。これは、グラスアイオノマーセメントから放出されるフッ素が歯質に取り込まれ、う蝕になりにくいことを示唆し、フッ素徐放性のある充填用材料を使用する大きなメリットと考えられます。

ご研究論文に報告されております臨床的意義は、「フッ素徐放材料は、二次う蝕抑制の効果がある。In vitroの試験結果は、レジン強化型グラスアイオノマーセメントが化学硬化型グラスアイオノマーセメントと同様に二次う蝕抑制の効果があり、デンチンポンディング材を使用して充填したコンポジットレジンよりも顕著にその効果があることを示した。」とまとめられております。

引用文献:永峰道博ら:Effect of resin-modified glass ionomer cements on secondary caries:
American Journal of Dentistry, Vol.10, No4, August, 173-178,1997


試験方法:
抜去歯牙にか洞を形成し、修復材料を充填し一定期間経過後、人口う蝕液中に浸漬。さらに一定期間経過後、修復材料を含めて抜去歯をスライスし、X線にて耐酸性層の有無を観察したもの。
コンポジットレジンには耐酸性層は見られないが、フジII、フジII LCには対酸性層(矢印:▲)が形成されているのが分かる。

●グラスアイオノマーセメントのフッ素徐放性と物性の向上。

フジIX GP、フジII、フジII LC EMなどのグラスアイオノマーセメントは、セメント粉末の主成分であるアルミノシリケートガラス中にフッ素が含まれており、このフッ素は長い期間にわたり少しずつ放出されることがよく知られています。フッ素は、再石灰化を促進する役割を果たすことで注目されており、長期的にフッ素を徐放する性質は、グラスアイオノマーセメントの大きな特長となっています。

グラスアイオノマーセメント中のフッ素はガラス中あるいはマトリックス(硬化反応物)中に存在しますので、添加されたフッ化物(たとえばフッ化ナトリウムなど)が溶解してフッ素が放出されるのとは全く異なったメカニズムでフッ素を放出。そのため、グラスアイオノマーセメントはフッ素を放出しながらも、セメント硬化体のマトリックス等が成熟するため物性が時間の経過と共に向上していくという大変ユニークな性質を持っているのです。

下図は、一年間にわたりフジIX GP(高強度充填用グラスアイオノマーセメント)からのフッ素放出量と物性(圧縮強さ)を測定したものです。長期にわたるフッ素徐放性と物性の向上というグラスアイオノマーセメントのユニークな特長がお解りいただけるでしょう。