QOL向上のために歯科医療にできること:MI21.net

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今後求められる歯科医療のありかた

2006年の厚生労働白書には、今後さまざまな取り組みにより、『患者の視点を尊重した医療を推進し、質が高く効率的な医療連携体制を構築すること』と記載されています。その中には、医療を担う人材の確保と質の向上が挙げられ、高齢化にともなう疾病構造の変化や国民のニーズの多様化、患者の権利をより尊重するための双方向のコミュニケーションのありかた等、歯科医師個人が医療人としての基本的な態度や技能、知識を十分に理解する必要があります。
このような背景をもとに、2006年4月より歯科医師臨床研修が必修化され、診療に従事する歯科医師は、歯科医師免許取得後1年以上の臨床研修を受けることとされました。
この新歯科医師臨床研修制度の創設は、歯科医師養成にとどまらず、地域保健や福祉分野との連携など、歯科医療提供体制の変化や歯科医療の質の向上などさまざまな革新をもたらすものと期待されています。

国民の健康意識の向上は近年めざましいものがあり、いまや疾病を治療して予防する発想(Disease-oriented concept)から、健康を保持・増進するためには何をすればよいかという発想(Health-oriented concept)に変わってきたと言われています。
上述の厚生労働白書でも『患者の視点を尊重した…』と強調されていることが注目されます。
しかし1日のうちさまざまな主訴により歯科を訪れる患者は、国民の約1%にすぎません。
そして口腔に悩みをもちながらも歯科を受診しない人々が多いこともわかっています。
今後は歯科を訪れる患者のみならず、国民にも目を向け、歯科医療従事者としてどのように関わっていくのかが鍵になってくるでしょう。

※厚生労働省:平成18年度厚生労働白書:第8章安全・安心で質の高い医療の確保,296-323
※厚生労働省:平成17年度国勢調査, 平成17年度患者調査より算出

新たな歯科の方向性

プライマリーヘルスケアの担い手 ホームドクターとしての歯科

歯科医師の数が内科医よりも多いことをご存知でしょうか。各科ごとの人数を調べてみると、医科で最も人数の多い内科医を凌ぐ数の歯科医師がいることがわかります。WHOの推定調査の結果でも、国民人口に対して日本の歯科医師数は多いことが示されています。そのような情勢のなかで、国民の健康意識の向上に伴い、う蝕は特に小児をはじめとする若年層で顕著に減少しています。ただう蝕を治療し、抜けた部位を補うだけであれば、今後の歯科医師の業務は歯科医師の増加と反比例して減少の一途をたどるでしょう。

人口10万人あたりの医師数、歯科医師数
※厚生労働省:平成16 年度医師・歯科医師・
薬剤師調査をもとに加工

平成17年度に報告された厚生労働科学研究『新たな歯科医療需要の予測に関する総合的研究』で行なわれた全国の学識経験者によるアンケート調査では、需要が増加すると考えられる歯科医療の分野として予防歯科を筆頭に、インプラント、高齢者歯科、審美歯科、再生歯科等が挙げられています。逆に需要が減少するであろうと考えられる分野には、小児歯科、歯科保存科、歯科補綴科を挙げた回答者が88%にも及びました。これらの背景として考えられることとして、少子高齢化や予防歯科の成果によるう蝕の減少、材料の進歩などに加え、国民のQOLの向上への期待といった社会的要因も関与しています。また、口腔保健の向上が全身の健康に貢献するものとして、歯周病予防による循環器疾患や肝疾患、感染症、認知症への影響が確認されており、歯周病を予防・治療することは国民の健康な生活を確保する上で重要な鍵を握る、とも記載されています。

高齢化社会である現在、今後はただ歯の治療を行なうだけではなく、歯科を訪れる方々はすべて多かれ少なかれ何らかの健康上の問題を持っている、という認識をもち、全身的な状態にも注意を払い、必要であれば総合病院を紹介するなどして病診連携を密にし、プライマリーヘルスケアの担い手として、歯科医にも生涯にわたるホームドクターとしてのありかたが求められるともいわれています。

※花田信弘, 安藤雄一: 高齢者の健康調査における全身状態の評価, 厚生科学研究「口腔保健と全身的な健康状態の関係」運営協議会編:
 伝承から科学へII 口腔保健と全身的な健康状態の関係について(冊子1)8020 者のデータバンクの構築;76-107, 口腔保健協会, 東京,2000

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