QOL向上のために歯科医療にできること:MI21.net

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8020とQuality Of Life

厚生省(現厚生労働省)と日本歯科医師会が1989年に提唱した「80歳で20本の歯を残そう」という8020運動は、歯科界はもちろん、一般にも浸透し『健康日本21』の目標値にも加えられ、国民全体の口腔健康目標の重要な項目です。
「何でもおいしく食べられる」幸福は、健康な口腔あってこそ、と前述しましたが、8020の示す20とは、「何でもおいしく食べられる」ために最低限必要な歯数であり、これには残存歯数が20本を下回ると咀嚼能力が著しく低下するというさまざまな疫学調査による根拠があります。

残存歯数が20本を下回るとナッツ類、ステーキといった比較的硬い食品群がかめなくなり、歯数が半数以下になるとはんぺんや米飯といった比較的軟らかい食品までかめなくなる傾向にあるという報告があります。
これは20本以上の歯を残すことで、咀嚼機能を維持できることを示しています。
また残存歯数20本未満の群は、20本以上の群に比べ「やせている人」の割合が有意に高かったという報告もあり、咀嚼能力の低下が適切な栄養摂取の障害になっている可能性が示唆されます。

※矢野正敏他:成人の咀嚼能力に及ぼす要因について;口腔衛生会誌43,369-376,1993

QOLと咀嚼能力の関係

厚生労働科学研究『口腔保健と全身的な健康状態の関係』運営協議会の報告では、高齢者対象の調査において良好な咀嚼能力がQOLの高さに影響し、さらに高齢者の日常活動能力(Abilities of Daily Life:ADL)や視力、聴覚にも良好な影響を及ぼすことを示しています。特にQOLに関しては、QOL良好者に対し様々な項目について評価した結果、「良好に食べられる(咀嚼できる)」ことが非常に関連深いことがわかりました。高齢者へのアンケート調査などで現在の楽しみを尋ねると『食べること』が上位にランクされることが多いですが、この調査により「食べられる」すなわち『咀嚼能力の高さ』が高齢者のQOLの高さに直結していることが示されています。
この調査では、簡易版フェイススケール(本来は20段階)を用いて、QOLを評価しています。
フェイススケールは、さまざまな表情を表した絵を見せて現在の気分にふさわしい表情を選んでもらい、QOLを評価する方法です。
図の左端の1の笑顔を選んだ人をQOL良好者とし、咀嚼能力との関係性を分析したところ、右下のグラフに示したように全ての食品を問題なくかめる咀嚼能力が良好な群では、かめない食品がある群よりQOL良好者の割合が有意に高かったことがわかりました。
QOLはその人の価値観によって異なるため、諸要因を調整し、あらゆる角度から分析されていますが、いずれの結果も統計学的に有意な結果が出たのは咀嚼能力とQOL良好者の関係だけだったとされています。

簡易版フェイススケール

咀嚼能力別にみたQOL良好者の割合 簡易版フェイススケール

上記6まで、また10までと、区分を調整し分析すると咀嚼能力との関係に有意差はなかったようです。このことにより咀嚼能力、すなわち「かめない食品がある」状況が、QOLの低下に作用するというより、「何でもかめる」ことが、QOL向上に作用する要因であることもわかります。

※花田信弘, 安藤雄一: 高齢者の健康調査における全身状態の評価, 厚生科学研究「口腔保健と全身的な健康状態の関係」運営協議会編:伝承から科学へII 口腔保健と全身的な健康状態の関係について(冊子1)8020 者のデータバンクの構築;76-107, 口腔保健協会, 東京,2000

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